「デモカーのRX-7、やっぱりパワーが出てるから最高速も出てますよね~」
筑波のタイムアタックのリザルトが公になった頃や、冬場にタイム出したい方が来店されるこの時期になると、ポツポツとささやかれるこの内容。
サーキット走行における最高速の良し悪しは、作り手目線では悪い気にはならないものの、そこだけピックアップされるのは正直あまり嬉しくはないのが本音だったりします。
理由?
それは「パワーにモノを言わせるだけで最高速が出るわけじゃない!」ということを知ってほしいから・・・ですかね( ̄▽ ̄;)
最高速が伸びるのは最高速を出せる“1つ前”があるから
様々なステージでの最高速はエンジンの絶対出力が大きいければ有利、というのはその通りだと思います。でも、サーキット走行における最高速ってそれがすべてじゃありません。
リザルトに並んだ数字だけを見て「Aの車より遅い」か「Bの車より速い」を比べるのは誰だってできます。でも本当に大切なのは「なんでこの数字が出せるんだろう?」ということにもっと着目するべきです。
誰の目で見ても光る最高速を叩き出す車両には、必ずそのための「準備」ができています。その「準備」はコース上のマキシマムな最高速を記録するための“1つ前”に目を向けることが最もシンプルな方法だと思います。
筑波サーキットのコース2000なら第2ヘアピン、ツインリンクもてぎのロードコースならダウンヒルを含むストレート前のヘアピン、富士スピードウェイなら最終コーナー・・・etc
サーキットにおける最高速は、その1つ前のコーナーにそれを記録するための車体側・乗り手側の準備が整えられています。というか、そこでそれが出来ていないと「本当に出るべき最高速」は出ません。
最高速を伸ばすために大切な“準備”
過給器があるか・ないか、後輪駆動か・4輪駆動か、Sタイヤか・ラジアルか、、、最高速を出すための準備の根本には大きな違いや差はありません。大切なのは「コーナーの脱出速度を高める」。ただそれだけです。特別なものではありません。
けれど、これがビックリするほど軽視されちゃいますし、「そんなの知ってるよ」っていう人ほど、その大切さを理解していないことも多々あります(^^;
脱出速度を高めるって、乗り方も重要ですけど、車のセットアップもきちんと整えないと結果につながらないので、そう簡単なことではありません。
たとえばお客さんが持って来た車載映像なんかでよくある「カウンター当てながら立ち上がる」とか論外ですし、クリップ手前からの全開率が低い場合も、心の中では「出直して来いw」とつぶやいていることもあります( ̄▽ ̄;)
コーナーの脱出速度を高めることはいわゆる「メカニカルグリップの向上」といえますが、近年の速いチューニングカーに標準装備されつつある、大きなGTウイングやカナード、アンダーパネルなどに目が行ってしまうと「必要なんだ」と錯覚されがちですが、どんな車両でもまずはメカニカルグリップを高めることが大切だとサカモトエンジニアリングでは考えています。
実際のところ、メカニカルグリップの向上はデモカーのFD3S RX-7のメインテーマの1つでもありますし、その中であれこれ仕様変更を模索していると、まだまだパワーをこのままにしても最高速が伸びるセットが出来ると考えています。ホント、終わりなき話です(^^)/
ラップタイム向上を目指すなら、なるべくリスクの少ない方法を
さて、サーキット走行における最高速向上を目論む中で有効な、コーナーの脱出速度を高めること。これは走らせ方もそうですし、車のセットアップもきちんと見直す必要があります。
お客さんとのやり取りを例で出すと・・・
お客さん:
もっとパワー上げてほしい。
サカモト:
なぜゆえにです?
お客さん:
パワーが有れば最高速伸びるし、タイムももっと上がるじゃん?あと最近、最高速が伸びないの。
サカモト:
まずデータ取ってみましょうか( ̄▽ ̄)
「お客が欲しいって言ってるんだから素直に提供すればいいじゃん?」という声も聞こえてきますが、車遊びを提供する側からするとそれが正解とは考えていません。
これは「ラップタイムの向上」を目指すのであれば、できるだけリスクを少なく&ドライビングスキルの向上につながることにテーマを持ったチューニングを提供するのが、最も大切だと考えているからです。
確かにわかりますよ?
危険な匂いが漂うくらいにパワーを持った車両を走らせるスリルや高揚感っていうのも。それもそれでチューニングカーの醍醐味の1つでしょうしね(^^;)
でも、よりタイムをもっと安全に目指すのであれば、相応のステップ踏んだり、スキルを身に着けることを行うべきです。じゃないと、失うものが大きくなっちゃうこともありますし・・・。
脚周りの見直しで最高速がアップのはよくある話
メカニカルグリップを向上させて、コーナーの脱出速度を高めるやり方はいろいろです。もちろんこれは車両によっても違いますし、ステップによってはドライビングスキルを強く求める部分もあります。
ただ総じて得ることは「履いているタイヤを活かすための方法」に行きつくと思います。ワタクシの愛読書wのバリバリ伝説でも出てきますが、「どんな優れたライダーも、タイヤ以上の仕事は出来ない」的な会話が個人的には心に響きます( ̄▽ ̄)
ほんとその通りで、そのために色々な足回り関係のパーツ(ピロや強化アーム、車高調にスタビ等々)が市場には無数にリリースされているので、今の車やドライバーのスキル・運転方法などを見ながらそれらを組み合わせたり、時にはワンオフで補強や軽量化を加えたり、そして細かくセット出しを進めていったりをして、履いているタイヤを出来るだけ活かせるようにチューニングする必要があります。
これらは正攻法はあってもアプローチの方法は1つではありません。でもタイヤさえ活かすことができれば、エンジン出力を上げずとも最高速は必然的に上がりますし、ほとんどのサーキットではタイヤを使うことに重点を置いた方が、ラップタイムへの貢献度は高いです。
必ずやってくる「止めること」は絶対に忘れないで
よく車のスペックなんかの話で出てくる「走る・曲がる・止まる」という3要素。言い換えれば加速・旋回・減速という解釈もできますが、チューニングを行う上では「止まる・曲がる・走る」という順番を推奨しています。
こちらも理由はシンプルで、止まる車は安全ですし、曲がる車はコントロールしやすいですが、走りすぎる車はリスクを伴うからです。なので車両の仕様やドライバーのスキルに応じてそれらをバランスよくなるようにチューニングしていくことが大切になってきます。
それに「自信もってちゃんと止められる」からブレーキで詰められるわけですし、「きっちり無駄なく旋回できる」伸びのある立ち上がりができれば、最高速や直線上でのアベレージ速度がアップするのは、容易に想像ができますよね(^^)
リスクを伴うことがチューニングじゃない
クルマ好き・チューニングカー好きの1人として思うのは、クルマがクラッシュする瞬間は見たくはありません。特にチューナーという立場では手掛けた車両がそうなることはホント、考えたくないですね(^^;
だからこそ、リスクを伴うチューニングを提供する場合には、「本当にそれが正しい選択なのか」をしっかりと考えなければなりません。
今回は最高速に関するエンジンパワーを例に取りましたが、実際のところ、こういうリスクを伴うチューニングは意外と多いです。お客さんが「安全に長くチューニングカーライフを続けて頂ける」よう提案をすることも、サカモトエンジニアリングとしては大切な使命だと考えています。
これからの季節は自然と最高速は伸びますが、それ以上に追求する場合には、「本当にパワーが足りないか」ということをもう一度冷静になってみるのも、ラップタイムを向上させるひとつのステップだと思いますよ(^^)/